「なぜ、我々の戦略はいつも中途半端に終わるのだろう?」
「感覚や経験則だけに頼った意思決定から、そろそろ脱却したい…」
「ビジネスの成功確率を、科学的に高める方法はないものか?」
もしあなたが、ビジネスにおける「不確実性」と戦い、より確かな成果を求めているなら、本書はあなたの思考を根底から覆す「羅針盤」となるでしょう。
今回ご紹介するのは、P&G、そしてUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で数々の奇跡的なV字回復を実現した、戦略家・森岡毅氏とその右腕・今西聖貴氏による『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』。
この本は、高度な数学の知識を要求するものではありません。
ビジネスのあらゆる事象を「確率」で捉え、成功確率が最も高い選択肢に、限りある資源を集中投下するという、極めて合理的でパワフルな「思考のフレームワーク」を授けてくれる一冊です。
この記事では、本書の核心である「確率思考」と、それを支える「数学マーケティングのフレームワーク」を、具体的な使い方や事例と共に、どこよりも分かりやすく解説します。
ビジネスは「運」ではない。「確率」のゲームだ
本書が提示する、最も根源的なメッセージ。それは「ビジネスの成否は、偶然や気合で決まるのではない。いかに成功確率の高い目を選び、実行し続けられるかで決まる」というものです。
多くの企業は、成功した他社の「戦術(What)」だけを真似しようとします。
しかし、なぜその戦術が成功したのかという「戦略(Why)」、つまりその裏にある確率的な優位性を理解しない限り、同じ成果は得られません。
「確率思考の戦略論」とは、この不確実な世界で、自社の成功確率を意図的に高めていくための、再現性のある思考法なのです。
すべてのビジネスを分解する「数学のメス」
では、どうやって成功確率を測るのか?本書では、ビジネスの成果を、シンプルな数式に分解することで、客観的に分析する手法を提示します。
例えば、ある商品の売上は、以下のように分解できます。
売上 = 市場規模 × 認知率 × 配荷率 × 購入率 × 購入頻度 × 平均単価
この数式自体を覚える必要はありません。重要なのは、どんな複雑なビジネス目標も、このような構成要素(変数)の掛け算に分解できるという事実です。
そして、戦略家の仕事とは、これらの変数の中で、「どれを動かせば、最も効率的に最終的な成果(売上)が伸びるのか?」、その一点(本書ではクリティカル・イシューと呼ばれる)を見極めることなのです。
「確率思考」の実践フレームワークと使い方
それでは、この思考法をどのように実務に落とし込めばよいのか、具体的なステップと事例で見ていきましょう。
ステップ1:目的(KGI)を明確に定義する
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解説: まず、何を達成したいのかを、誰が見ても分かる「数字」で定義します。「ブランドイメージを向上させる」といった曖昧なものではなく、「年間売上を20%向上させる(10億円→12億円)」のように、具体的かつ測定可能な目標を設定します。
※KGIとは「Key Goal Indicator(経営目標達成指標)」の略。ビジネスにおける最終的な目標を数値で表したもので、売上高や利益率、成約数などがKGIとして設定され、組織が目指すべき方向性を示します。
ステップ2:現状を「数式」で構造的に理解
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解説: ステップ1で設定した目標を、構成要素に分解します。そして、各変数の「現状の数字」を把握します。
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使い方・実践例(地方のレストランの場合):
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目的: 月間売上を240万円から300万円に増やす。
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構造分解: 売上 = 客数 × 客単価
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現状把握:
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客数:月間1,200人(1日平均40人)
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客単価:2,000円
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1,200人 × 2,000円 = 240万円
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ステップ3:最も確率の高い「レバー」を見極め
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解説: ここが「確率思考」の心臓部です。各変数を動かすために必要なコストや難易度を考慮し、「どの変数を改善するのが、最も成功確率が高く、効率的か?」を分析します。
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使い方・実践例(続き):
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選択肢A:客数を増やす
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1,500人 × 2,000円 = 300万円(目標達成には、あと300人必要) -
確率分析: 新規顧客を300人増やすには、多額の広告費が必要。近隣の競合も多く、成功確率は低そうだ。
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選択肢B:客単価を上げる
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1,200人 × 2,500円 = 300万円(目標達成には、あと500円必要) -
確率分析: 既存顧客に、もう一品追加してもらう方が、新規顧客を獲得するより簡単かもしれない。メニューの工夫次第で、成功確率は高そうだ。
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結論: この場合、クリティカル・イシューは「客単価の向上」である可能性が高い。
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ステップ4:一点集中の「戦略」と「戦術」を立案する
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解説: 最も確率の高いレバー(クリティカル・イシュー)が決まったら、そこに資源を集中投下するための具体的な戦略と戦術を考えます。
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使い方・実践例(続き):
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戦略: 既存顧客の客単価を500円向上させる。
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戦術:
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ドリンクとデザートを組み合わせた「お得なセットメニュー」を開発する。
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スタッフに、メイン料理に合うサイドメニューをおすすめするようトレーニングする。
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ポイントカードを導入し、一定金額以上の利用で特典がつくようにする。
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USJを復活させた「確率思考」
この思考法がいかに強力かは、森岡氏がUSJで実践した例が雄弁に物語っています。
当時のUSJは、若者向けの絶叫マシンが中心で、巨大な市場である「ファミリー層」を取り逃していました。
森岡氏は、様々なデータを分析し、「入場者数を増やす」という目的を達成するために、最も成功確率の高いレバーは『ファミリー層の年間来場回数を増やすこと』だと見抜きました。
そして、その戦略に基づき、資源を集中投下して作られたのが、ファミリーエリア「ユニバーサル・ワンダーランド」だったのです。
これは、単なる思いつきではなく、緻密な確率計算の上で下された、必然の意思決定でした。
まとめ:戦略とは「勝率を上げる技術」である
『確率思考の戦略論』が教えてくれるのは、ビジネスという不確実な戦場で、いかにして自軍の「勝率」を上げていくか、という極めて実践的な技術です。
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感覚や精神論ではなく、構造と確率で考える。
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すべての選択肢を試すのではなく、最も確率の高い一点に資源を集中させる。
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成功した戦術(What)を真似るのではなく、その裏にある戦略(Why)を読み解く。
この思考法を身につければ、あなたは日々の業務に追われる「作業者」から、未来を意図的に作り出す「戦略家」へと、大きな一歩を踏み出すことができるでしょう。
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