「マーケティング部門は、広告や宣伝だけやる部署だと思われている…」
「営業と開発の連携がうまくいかず、顧客不在の製品が生まれてしまう…」
「会社全体として、どこに向かって進むべきかという戦略が共有されていない…」
多くの日本企業が抱える、こうした根深い組織の問題。その原因は、「マーケティング」という言葉の本当の意味を、経営者から現場まで誰も理解していないことにあるのかもしれません。
今回ご紹介するのは、USJをV字回復させたことで知られる戦略家・森岡毅氏が、その方法論の核心を明かした一冊、『マーケティングは「組織革命」である。』。
この本は、個別のマーケティング・テクニックを解説するものではありません。
むしろ会社という組織そのものを、顧客を起点に再構築し「勝てる組織」へと変貌させるための、極めてラディカルな「組織変革の教科書」です。
この記事では、なぜマーケティングが単なる「機能」ではなく「組織革命」でなければならないのか、そして「強いマーケティング組織」をどう作るのかを、具体的な使い方と共に徹底解説します。
なぜマーケティングは「革命」が必要なのか?
多くの企業で、マーケティングは「広告宣伝」「販売促進」といった、限定的な機能を持つ一部門だと誤解されています。しかし、森岡氏が説くマーケティングの本来の役割は、まったく異なります。
マーケティングとは、顧客を深く理解し、そのインサイト(本音)に基づいて、会社のすべての活動を統合し、需要を創造する「頭脳」である。
つまり、マーケティング部門は、会社の進むべき道(戦略)を指し示す司令塔であり、その戦略に基づいて、開発部門は「売れる製品」を作り、営業部門は「効果的な方法」で売り、人事部門は「戦略に必要な人材」を育てるのです。
この状態を実現するためには、部門間の壁を取り払い、会社の文化や意思決定プロセスそのものを変える必要があります。それは、小さな改善(カイゼン)の積み重ねでは達成できません。だからこそ、痛みを伴う「革命」が必要なのです。
「勝てる組織」を作る3つの必須要素
では、どうすれば「マーケティング・カンパニー」へと生まれ変われるのでしょうか。本書では、そのための重要な要素が示されています。
1. CMOは「CEOの右腕」であれ
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教えの核心: CMO(最高マーケティング責任者)は、広告の責任者ではない。CEOに次ぐ、企業の成長を牽引するビジネスリーダーである。
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解説: 強いマーケティング組織には、必ず強力なリーダーがいます。そのCMOは、顧客理解の専門家であると同時に、財務諸表を読み解き、事業全体の損益に責任を持つ「ミニCEO」でなければなりません。彼らは、感覚や経験だけでなく、データと数学を武器に、CEOと対等に事業戦略を議論します。
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使い方・実践例:
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ダメなマーケター: 「この広告クリエイティブは素晴らしいです!」
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優れたCMO: 「この広告に5億円投資すれば、我々のターゲット層における認知度が15%向上し、その結果、売上が20億円増加し、ROI(投資収益率)は400%になる、という確率的根拠を提示できます。」
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2. 「数学」を組織の共通言語にせよ
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教えの核心: 感覚や「べき論」による議論をやめ、客観的なデータと確率思考に基づいた意思決定を行う。
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解説: 「若者にはこれがウケるはずだ」「当社の伝統を守るべきだ」といった主観的な意見のぶつかり合いは、不毛な結果しか生みません。
森岡氏のメソッドの根幹は、消費者調査などのデータを用いて「どの戦略を選べば、最も成功確率が高いか」を数学的に導き出すことです。
これにより、組織内の無用な対立をなくし、全員が同じ目標に向かって合理的に動けるようになります。 -
使い方・実践例:
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新製品開発の会議で、A案とB案で意見が割れたとします。
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ダメな議論: 「私はA案のデザインの方が好きだ」「いや、B案の方が革新的だ」
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確率思考の議論: 「消費者調査の結果、A案を支持する層は市場の10%だが購入意向が非常に高く、B案を支持する層は30%いるが購入意向は中程度です。それぞれの期待売上を計算した結果、A案の方が成功確率が高いと判断します。」
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3. CEOが「最強のマーケター」になれ
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教えの核心: この組織革命を断行できるのは、最終的にCEOしかいない。CEO自身が、マーケティングの重要性を深く理解し、変革の先頭に立つ必要がある。
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解説: 部門間の利害が対立する組織改革は、必ず強い抵抗に遭います。CMOがどれだけ優秀でも、CEOの強力な後ろ盾がなければ、革命は頓挫します。
CEOは、マーケティングを単なる一部門の仕事と見なさず、自社の成長戦略そのものであると認識し、全社にその哲学を浸透させる責任があります。
まとめ:あなたの会社は何を作る集団?
『マーケティングは「組織革命」である。』は、私たちに根源的な問いを投げかけます。 あなたの会社は、単に「製品を作る集団」なのか?それとも、顧客を深く理解し、「価値を創造する集団」なのか?
後者へと生まれ変わるためには、マーケティングを軸とした組織全体の再設計が不可欠です。
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リーダー(CMO)を育て、権限を与える。
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データと数学に基づいた、合理的な意思決定プロセスを導入する。
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そして何より、トップ(CEO)が覚悟を決める。
本書は、その険しくも価値ある「革命」の道のりを照らす、強力な光となるでしょう。マーケティング担当者だけでなく、経営者、そして会社の未来を憂うすべてのビジネスパーソンに、一読を強くおすすめします。
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