「我が社の主力事業は安泰だ。しかし、次の成長の柱が全く育っていない…」
「新規事業部を立ち上げたが、既存事業部との対立が絶えず、成果が出ない…」
「成功体験が足かせとなり、過去のやり方から抜け出せない…」
もし、あなたの組織がこのような「大企業病」の兆候に蝕まれているなら、それは個人の能力や意欲の問題ではなく、組織の「構造」そのものに欠陥があるのかもしれません。
今回ご紹介する『両利きの経営』は、なぜ多くの成功企業が、自社の成功が原因でイノベーションを生み出せなくなり、やがて衰退していくのか(イノベーションのジレンマ)を解き明かし、その呪いを断ち切るための具体的な組織論を提示した一冊です。
この記事では、本書の核心である「深化」と「探索」を両立させる経営について、あなたの組織を持続的成長へと導くための具体的なアクションと共に解説します。
なぜ、成功した企業ほど失敗するのか?
企業の活動は、大きく2つに分けられます。
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知の深化 (Exploitation) 既存の事業を、より効率的に、より改善していく活動。コスト削減や品質向上など、現在の利益を最大化するための活動です。
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知の探索 (Exploration) 新しいアイデアや、未知の市場、革新的な技術を探求する活動。失敗のリスクは高いですが、未来の利益を生み出すための活動です。
多くの企業は、成功すればするほど、効率的な「深化」の活動に偏っていきます。評価制度、組織文化、予算配分など、すべてが既存事業の最適化のために設計され、失敗が許されない「探索」活動は、組織から排除されていくのです。
これが、成功企業が環境の変化に対応できず、自滅していくメカニズムです。
解決策は「両利き」になること
本書が提示する解決策は、まるで人間が右手と左手を巧みに使い分けるように、組織が「深化」と「探索」を同時に、かつ意図的に使い分ける「両利きの経営」を実践することです。
しかし、性質の全く異なるこの2つの活動を、同じ部署、同じ文化の中で行うのは不可能です。「深化」を求める組織で「探索」を行えば、「無駄なことをするな」と潰されてしまいます。
そこで重要になるのが、組織構造レベルでの「分離」と、経営トップレベルでの「統合」です。
「両利きの経営」を実践するための3つのステップ
Step 1:「探索」のための別組織を創る
新規事業やイノベーションを目指す「探索」部門は、既存の主力事業部門から組織的、物理的に分離させます。
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目的: 既存事業の文化や評価基準、プロセスの影響から守るため。
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具体例:
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「探索」部門には、独自の評価基準(売上ではなく、学習の進捗など)を設ける。
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意思決定プロセスを簡素化し、スピードを重視する。
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失敗を許容し、そこから学ぶことを奨励する文化を醸成する。
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Step 2:経営トップが両組織を「統合」する
分離された2つの組織をつなぎ、全体の戦略を司るのは、経営トップ(CEOや上級役員チーム)の重要な役割です。
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役割:
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2つの組織間で発生する、資源(人材・予算)の奪い合いや対立を調整する。
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全社的な視点から、両方の活動に意味と価値を与え、戦略的なバランスを取る。
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NG例: 「探索」部門を現場に丸投げし、経営陣が関与しない。これでは、探索部門は孤立し、やがて失速します。
Step 3:共通のビジョンと危機感を共有する
分離された組織がバラバラにならないために「我々は一つの会社である」という強力なアイデンティティが必要です。
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方法:
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経営トップが、会社全体の未来像(ビジョン)と、現状に対する危機感を繰り返し語る。
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なぜ今、「深化」だけでなく「探索」が必要なのか、その戦略的な意図を全社員が理解できるようにする。
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これにより、既存事業部の社員も、新規事業部を「会社の未来を創る仲間」として認識し、協力体制が生まれます。
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どんな人におすすめ?
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会社の将来的な成長に、漠然とした危機感を抱いている経営者や役員
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大企業で新規事業開発を担当し、既存事業部との軋轢に悩んでいるリーダー
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安定はしているが、組織に閉塞感を感じているマネージャー
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企業の盛衰や、イノベーション戦略に興味があるすべての人
まとめ
『両利きの経営』が示すのは、持続的な成功とは、現在の収益を最大化する「深化」の力と、未来の成長エンジンを創り出す「探索」の力を、意識的に両立させる経営によってのみ達成される、という普遍的な真理です。
それは、短期的な利益を追求しながら、同時に未来への種を蒔き続けるという、極めて困難なバランス感覚を経営者に要求します。
あなたの会社のリソース(時間・予算・人材)は、「深化」と「探索」に、それぞれ何パーセントずつ配分されているでしょうか?一度、客観的に見つめ直してみることが、未来への第一歩となるかもしれません。
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