「お金持ち養成大学」へようこそ。
これまでの講義で、私たちは【PER】(市場の期待度)や【PBR】(資産価値)、【PSR】(売上高の期待値)といった、「株価」をベースにした物差しを学んできました。 これらは、いわば「その会社の“一部屋”が、いくらで売られているか」を見る指標です。
しかし、もしあなたがその会社を“丸ごと”買収しようとしたら、どうでしょう?
会社の借金もすべて引き受けなければなりません。その時、「株価」だけを見ても、本当の買収価格は分かりません。
M&Aのプロや、機関投資家が「企業の“本当の価値”」を測るために使う、全く別の物差しがあります。それが、【EV/EBITDA】(イーブイ・イビッダー)倍率です。
M&Aサイトをチェックしていると何度も見る機会があるかと思います。
この記事は、あなたが「株価」という表面的な数字から一歩進み、プロが使う“企業丸ごと”の価値算定術を学ぶ、上級講義です。
第1章:【EV/EBITDA】とは何か?丸ごと買うための物差し
この指標は、2つの難解な言葉の組み合わせです。一つずつ解体しましょう。
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【EV】(Enterprise Value:企業価値)
これは『その企業を“丸ごと”買収するために、実質いくら必要か』を示す数字です。 EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金同等物 (時価総額=株価)だけでなく、買い手が引き受けることになる「借金(有利子負債)」も足し、会社が持っている「現金(買収後にすぐ使えるお金)」を差し引くことで、より正確な“買収価格”を算出します。 -
【EBITDA】(Earning Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization)
これは『その企業が、“本業の儲け”から、どれだけの“現金”を生み出しているか』を示す、極めて強力な指標です。 EBITDA ≒ 営業利益 + 減価償却費 PL(成績表)上の「営業利益」に、実際には現金が出ていっていない費用である「減価償却費」を足し戻すことで、『会社が本業で稼ぎ出す、生のキャッシュ創出力』を測ることができます。
つまり【EV/EBITDA】とは、『その会社を丸ごと買うのに必要な金額(EV)が、その会社が生み出す年間キャッシュ(EBITDA)の、何年分に相当するか?』を示す指標なのです。(例:10倍なら、10年分のキャッシュで買収費用を回収できる)
第2章:なぜプロは「PER」より「EV/EBITDA」を好むのか?
なぜプロはこの面倒な指標を使うのでしょうか?
それはPERでは見えない「2つの真実」を、EV/EBITDAが暴き出してくれるからです。
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【“借金まみれ”】の会社を見抜ける
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A社:時価総額100億 / 利益10億 / 借金 0億 → PER 10倍
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B社:時価総額100億 / 利益10億 / 借金 500億 → PER 10倍
PERだけ見れば、両社は同じ「10倍」です。しかし、B社は巨額の借金を抱えており、倒産リスクが高い。 EV/EBITDAなら、B社のEV(企業価値)は(100億+500億=)600億と計算されるため、A社より遥かに高い(割高な)数値となり、一発で危険性を見抜けます。
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【会計マジック】に騙されない
「減価償却費」は、会計ルール(何年で償却するか)によって、経営者が利益を“操作”しやすい項目です。
また大規模な工場を建てたばかりの会社は、減価償却費が巨額になり、PL上の「利益(PERの分母)」は小さく見えます。 EBITDAは、その減価償却費を足し戻すことで、『会計ルールに左右されない、生のキャッシュ創出力』を比較できるのです。
第3章:EV/EBITDAの「罠」 ― 万能ではない理由
しかし、このプロの物差しも万能ではありません。
EBITDAは、あくまで「簡易的なキャッシュフロー」です。 EBITDAが大きくても、それ以上に「運転資本(売掛金や在庫)」や「設備投資」で現金が消えていく会社は、危険です。
結局のところ、この指標も【キャッシュフロー計算書(CF)】と合わせて見て初めて、その真価を発揮するのです。
第4章:学園長が「M&Aの視点」を学ぶワケ
この大学の学園長である私は、インデックス投資が中心であり、正直に告白すると、個別株の分析で【EV/EBITDA】の数値を日々計算しているわけではありません。
ではなぜこの講義を行うのか?
それは、『この指標を知らないと、市場で起きている“大きなゲーム”のルールが理解できないまま戦うことになるから』です。
あなたが「PER20倍で割高だ」と思っている会社が、ある日、M&Aのプロ(投資ファンド)に「PER30倍(に見える価格)」で買収されることがあります。
なぜか?
それは、プロがEV/EBITDAで計算した結果、「借金がゼロでキャッシュ創出力(EBITDA)が凄まじいため、企業価値(EV)としては、むしろ“割安”だ」と判断したからです。
私たちがこの指標を学ぶ目的は、計算式を暗記することではありません。 『プロの投資家やM&Aの専門家が、自分たちとは“全く別の物差し”で企業の価値を測っている』という事実を知ること。 それこそが、ニュースの裏側を読み解き、市場の大きな流れを理解する上で、最強の【教養】となるのです。
暇な時にM&Aサイトを眺めているだけでもすごく面白いことが学べるので、是非やってみてください。
【次のステップへ】
おめでとうございます! これであなたは『M&Aのプロ』と同じ視点を手に入れました。
しかし、こう思いませんか? 「この知識を使って、4,000社もある日本株全部を分析するのは、正直、面倒くさい…」
その通りです。だからこそ、私たちは【AI】を使います。 次の講義では、今回学んだ【PER】や【PBR】、【ROE】といった全ての知識をAIに指示(プロンプト)として落とし込み、AIをあなた専属の“超優秀なファンドマネージャー”に変身させる、究極の実践術をご紹介します。
→ 講義【AI株式スクリーニング術】で最強のプロンプトを学ぶ
まとめ:あなたは“企業価値の鑑定士”たれ
PERやPBRは、「株価」という“氷山の一角”を見る指標です。 EV/EBITDAは、借金や現金まで含めた、“水面下の氷(企業全体)”を見る指標です。
あなたが、投資を「株券の売買」ではなく、「事業そのものへの出資」と捉えるならば、この視点は不可欠です。
今日からあなたは、ただの株価ウォッチャーではありません。 企業を丸ごと評価する、M&Aのプロと同じ視点を持つ、“賢明なる企業価値の鑑定士”なのです。
